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珍機レビュー④ ホンダ刈丸 UM-T12 後編 【使い道色々 性能ほどほど】

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(前編はこちら)
http://agri.inaka-nikki.net/shinkisyuunou/post-703.php

前回の紹介から、この後編を書き始めるまでに一か月強が経過。
正直、草の無い時期にレビューを書き始めてしまったので、後編はもう少し緑の増える
時期まで投稿を延そうかともようかとも思っていた。けれども、あれから時々時間を
見つけてブレードを研いだり、ワイヤー類のメンテナンス、キャブレターの調整などを
行って、まあ使用しても安心かなという所まで来たのでやっぱり紹介するとしよう。
 

改めて、この機体は ホンダUM-T12。 1985年製。新品に近い状態で四半世紀
以上放置されたもの。 当時の自分は小学校低学年。世間は科学万博や日航機墜落、
などが大きな出来事。わざわざマニア的観点から考えると、スーパーマリオ、ゲーセン
ではグラディウスやスペースハリアーなどが大きな話題に。鉄道ではシャークノーズの
新幹線100系、山手線では205系が登場した時代。ここらで当時のテレビ番組
なども思い返し始まったが、そういうものを振り返るのが趣旨ではない。

とにかく、幼心を思い出してみても巷の人々が曇りのない未来を予感し、それに
向かって突き進んでいたような時代だったように感じる。そんな中で登場したコイツは、
草刈りという地味な使い道ではあるのだが、設計思想、仕様、デザインの全てに渡って
冗談抜きに未来から来てしまったような印象さえ受ける。それくらい革新的だ。

エンジンは空冷2サイクル。排気量は55cc。刈り幅は30cm、乾燥重量30Kg
前進/後退ともに一速。これだけ書くと、別になんということは無い小さな草刈り機。
ただ、専用設計とも言えるバーチカルエンジンが当時の開発・生産力に余裕があった
事を窺わせる。本機はそうまでしても軽量で低重心でなければならないという点が重要。

20170220_125155.jpg
 
パット見、古臭さを感じない。少しだけレトロさを感じる点があるとすれば、 
ハンドルやマフラープロテクターなどにメッキパーツが使用されている事程度。
メッキの金属部品は、メッキ工程における環境負荷が大きいから、近年ではあまり
使用されなくなっている為だ。無鉛ガソリンの青いステッカーが辛うじて製造年次を
主張している。

見た目はゴツいが樹脂で出来ているカッターデッキなどは、芝刈り機などでも2000年
代に入ってからでなければあまり見られない構造。極端に理解されないであろう例え方を
するなら50ccのGPレーサー【ブルタコ50】が、70年代中盤に既にカセット式
ギアクラスター構造を備えていたような先進性。なんというか、こういう例え位しか
思い浮かばないくらい全体が変態的に極まった構成となっている。いや、ブルタコ50は
モノコックフレームなので、樹脂ボディを例えるのならそちらなのかもしれないが、
現在も二輪車のモノコック構造は一般的でない為、そういうことで。因みに車輪も樹脂
製と徹底している。
 
どうも話が脱線しやすい。以降は実際に使用している様子を踏まえながら、本機の
特徴を解説してゆきたい。

ハイト(刈り高さ)調整機構は四段階、左右前輪に装備。後輪位置は固定。
後輪が固定でも、そこまでの不自由さを感じることは無かった。
 
20170220_125334.jpg
 
調整方法は、一般的な歩行型芝刈り機のそれと同様。
  

それでは刈ってみよう。出来れば少しは緑色の草も生えているところで。
 
20170220_125511-1.jpg
 
なんというか、ものすごく普通に刈れる。刈り幅が狭いので、広大な面を刈るのに
向いていないのはこの時点でお察し。だが、それまでの【いわゆる草刈り機)と違う
考えで造られているから先進的なのだ。後輪(駆動輪)が大径なので、2駆でも走破性は
今のところ良好。

そういえば、本機の開発に関わったという知人がいるのだが、久方ぶりにコレを見た
ご本人の曰く

『あれ、大きいなこれ。こんな大きかったけかな。試作機はもっと小さかったはずだけど。』
 
という事だったので、もしかすると試作機では走破性や想定する草丈に関して難ありで、
大型化したのではないかとも考えられる。そのうちまた情報があれば、本記事に書き
加える事があるかもしれない。

  

そろそろ、真面目に使ってみるか。
コレ、大きな特徴は《広範囲に可動するハンドル》及び《前進でも後退でも刈れる》事。
作業関連のレバー類は、ハンドルに集中配置されている。機能は以下。

ハンドル左側のレバーを握ると、ブレードON(刈刃回転)。同時に、ガバナ(エンジン
調速)スプリングにもテンションが加わり、エンジン回転数も上がる。
ハンドル右手側のレバーは手前が前進、奥が後退。

尚、使用中ブレードに過負荷が入ると自動的にクラッチがスリップ。また、レバーから
手を離すと速やかにブレード回転も止まる安全設計。シンプルで扱い易い操作系は、
今も昔もホンダのお家芸。デッドマン装置/機構という言葉が一般的でなかった時代から
見事に対応がなされている。
未だに普及レンジの歩行芝刈り機などは、ブレードがエンジンのクランクシャフトに
直結されていたりするものが多い中にあって、この操作系はオペレータが人間という
時代が続く限り永久に通用し続けるだろう。
 
20170220_125838.jpg
 
積み重ねて保管してある資材を構造物に見立ててみよう。このようなキワでも、真横
からカニ歩きして刈れる。そしてスイッチバック可能。
つまり、オペレーターが機体後方からしか操作出来ない通常の歩行草刈り機と比較した
場合、作業導線の面で自由度が格段に増える。ハンドルの上下の調整角も45度あり
水平に近い状態から、アゴの下くらいまでの高さ(自分の身長170cm)まで可変
するため、刈りづらい個所にはもってこい。 
 
 
ハンドル角度を調整する際は、フレームとハンドルを繋ぐパイプに備わっているこの
レバーを手前に倒す。
  
20170223_172100.jpg
 
キルスイッチも、このパイプ上、レバーよりも少し奥にある。
いずれも、直ぐに手を伸ばせる場所にあるので、操作の際も煩雑さはさほど感じない。
けれども、キルスイッチは出来るだけ手元寄りにあった方が、安全面で有利なのは確か。
流石に現代基準で設計されてはいないので指摘するのも野暮だが、少々惜しい。

 
本体よりも背の高い草でも、別にフツーに刈るようだ。
 
20170220_130011.jpg
 
ただし枯れ草なので、盛夏になった場合、どの程度までいけるのかは検証しておかねば
なるまい。

作業中、負荷が増えた場合は、設定回転数は上げないと辛くなってくるが、エンジン回転
を設定するレバーはハンドル部に存在せず、以下の写真のように本機側の調整ツマミを
都度回してやらなければならない点は、どうしても煩わしく感じられる。
 
20170223_172029.jpg 
 
調整ツマミの位置は、車体左側、エンジン下部。チョークレバーより少し手前。 

また、回転数が上がると同時に車速も上がってしまうため、走行速度の調整による
負荷の増減が出来なくなるのは正直痛い仕様と言える。荒業として、走行レバーを
握らずに人力で押したり引いたりして作業速度を調整するという事も可能ではあるが、
芝刈り機でならともかく、草地全般を相手にする場合あまり現実的な使い方では無い。
この点に関しては、もしも当時のホンダご自慢のHST(油圧式無段変速トランス
ミッション)が装着可能であったのたなら、格段に完成度が向上していた可能性が残る。

しかしまあ、30年以上前の機械に対して何を求めているのだか。書いていて情けなく
なってくるが、事実は事実として。ついでに2サイクル故か、エンジン回転数をあまり
低速側にセットするとかなり意気地が無くなるので推奨出来ない。それでも、アイド
リングで走行する程度ならば問題ないが、とにかく遅い。単に走行をさせたい場合は、
平坦な場所ならば後輪を持ち上げて押してしまうか、ブレードをONにしてエンジン
回転数が上がった状態で移動の二択となるが、後者の方法は危険なので、主に前者で
ということになる。もしも刈り刃ををONにせず、普通に走行させる事が出来たならば、
このような痛痒さを感じずに済むが、この仕様はシンプルな操作系と引き換えとう解釈
で受け容れるしかなさそうだ。
しかし・・・みんな億劫がって、ブレードが回ったまま移動させてしまうだろうことは
想像に難くないのが、なんと言ってよいものやら。


 
次は傾斜地。コレが目玉。
現在は一般的な機械として認知されている【スパイダーモア】だが、これが正真正銘の
起源だと思われる。当時に良く考えついて製造出来たものだと思うがが、ホンダは自ら
必死で切り開いた新境地をそれ以上探求せずにあっさりと放棄してしまう妙な癖がある。
今では〇ーレック社の製品がこの市場を制圧している。
 
20170220_130404.jpg
 
40度までの傾斜に対応するとスペックにあるが、どうも静的にはそれで間違い無い。
ただし、法面がデコボコだっだり三次曲面になっているような場合は、トラクションを
失ったり、意図しない方向へ走って行ってしまうことが頻繁に起こる。それを回避する
ためには、どうしても無理な力を加えたり、妙な作業姿勢をとったりする事が多く、
急な傾斜地でスムーズな操作を出来るようになるまでは、かなりの修練が必要なのでは
ないかと感じる。
路面への粘着性自体は素性が良いのだがら、現代では四輪駆動と大径前輪が欲しい
ところ。それと、ハンドルが伸縮する訳でもないので、あまり長い法には対応出来ない。
土手の途中に立ち、これを真横に移動させながら操作する位なら、恐らく刈払機を
使用した方が楽で早いだろう。 
 
 
まあ、少々難点やクセのある機械ではあるけれども、全体的には相当使える部類で
あることも確か。このような植栽の周辺などを刈る際は神経質になる必要が無いので
とても重宝する。

20170220_130945.jpg
 
ハウスの隅っこも然り。刈払機が苦手な所はコレ。
 
 
刈幅30cmというのは、例によって畝間サイズな訳で。
 
20170220_131114.jpg
 
今回は、草も作物もないけれども、こういった場所にも丁度良い飛び道具さ加減。
機会は少ないかもしれないが、走行させている隣の畝からでも操作可能なので、土を
踏み固めたくない個所にも向いている。
コレとミニこまめを同時に使えば、畝間の除草作業は完璧と言えそうだ。
 
 
法面の上部すぐに構造物がある場合でも、ハンドル角度を随時換えてゆけば対応可能。
 
20170220_131443(0).jpg
  
但し、本機よりも下側に回り込んで操作するような場合は、、ブレードに弾かれた
石や枝などがオペレータの顔面や胸部に向かって飛んでくる可能性が高くなるので
出来るだけそういった作業姿勢にならぬように注意した方が良いだろう。
車体前後に一応飛散物防止カバーはあるのだが、念のため。
 
 
想定しうる場所はおおむね走らせてみたが、ついでに水田だった休耕地でも。
 
20170220_131939.jpg
 
地面の凹凸が多くても割と追従してくれた。木化した枯れ草や、背丈のある草が密集
しているところは、本機をウイリーさせることで、ある程度まではクリア可能。
尚、車体がそこそこ軽いので泥濘にはまっても引きずり出すのは簡単。
 
 
使い終わったら、カッターデッキの掃除をしよう。
こうやって。 
 
20170220_132135-1.jpg
 
ハンドル可変機構はメンテナンス時にも役立つ。歩行型芝刈り機の場合は、
機体を横転させるしかないのだが、この方式は非常に楽である。
また、エンジンをかけたまま、この角度で放置してみたが、なかなかエンストせず、
キャブレターからのオーバーフローも見られなかった。フロート式キャブレターに
しては、異様に傾斜に強い構造だ。全体的に、開発に苦労したであろう製品であることは
想像に難くないが、こんな目立たない部分でも、当時の開発者はだいぶ腐心したのでは
ないかと想像してみる。 
 
 
20170220_132153.jpg
 
同、正面より。
泥をカキ落とすのも、ブレードを着脱させるのも良い角度。作業が終わってからも扱い
易いという心憎さが、仕事の道具としてのポイントを高めている。
 
 
【総評】
《本気で場所を選ばぬマルチング専用芝刈り機》

という感じだろうか。だから一体どんな機械だよという話に戻ってしまいそうだが。
果樹園でも畑でも畔道でも芝生でも、そこそこの法面でも使えるのだから仕方なかろう。
しかし、刈り幅や出力の関係から、いずれの場所でも作業能力そのものには限度がある。
また、一億総評論家時代などと言われるような昨今の基準で、まともに評価してしまう
とと、大なり小なりの不満が多々出てくるだろう事も確か。なので、それらを理解
出来る者以外が手を出すべき機械ではない。

道具という特性上から、いわゆる旧車と呼ばれる自動車やオートバイなどと同様に、
趣味の対象として扱えと言う事は出来ないが、それに近い寛容さを持って接する、
例えば機械側の都合にオペレータが合わせてやるという位の心構えで使用するのが
ベターな付き合い方だろう。

とにかく登場した時代まで踏まえて考えると、及第点どころかとんでもない製品と言える。

グレ気味の秀才。目立つけどオッチョコチョイ。そんな感じの子。
どうにも憎めないことだし、これからもちゃんと使うことにしよう。


ただ、例によってとっくに絶版。純正部品も期待出来ない。どうしても欲しい人は、
オークションなどで落として、なんとか整備するか、そうでない人は【スパイダーモア】
で検索して、現行機種の購入をお願いします。
 
で、こういう変な記事ばかり書いていると、いい加減私が何者なのかという話にも
なってきそうだが、まあ、前職はそっち方面の研究開発なんぞしていました。以上。
  
 

【雑感】

1985年に登場した、ホンダ汎用製品を見返してみると、現在では考えられない程に
新たに投入された機種が多い。草刈り領域は、本機種の他に三機種。ホンダ初にして
世界初の4WS乗用トラクター、乗用芝刈機二機種、発電機群の一斉モデルチェンジ
+機種追加、主力汎用エンジンのリファインと新機種投入による馬力帯の拡充、
運搬車の投入・・・それらの殆どが、斬新な機構を引っ提げての登場だったのだから、
どこまで本気で攻めに出ていたかが解る。それだけのものを矢継ぎ早どころか機関銃の
ように開発するというのは、気合いだけでも、資金だけでも、技術力だけでもそうそう
出来るものでは無い。やはり、当時の市場には、将来まで含めて無限の可能性が広がって
いるように感じられる何かがあったのでは無いだろうか。
開発現場は、ジャンルは異なるものの、おそらくHY戦争(国内二輪車市場において
70年代終盤から80年代前半に渡って繰り広げられた、ホンダ対VSヤマハの
壮絶なシェア争いの総力戦。両社とも会社が傾くほどに疲弊し、Y社が降伏宣言をして
終焉)時代のような様相となっていたのかもしれない。しかし、汎用事業は戦うべき
相手もそのフィールドも無数。標的を絞り込まずに様々な領域に殴りこみをかけるのは、
二次大戦中のドイツ軍の如しでもある。

これだけ無謀とも思えるような展開を行って今も尚、汎用事業がしっかりと存続し
続けて来ていること自体が、ある意味驚嘆に値する。尤も、現在では、売れる製品類を
残して、それ以外は切り捨て、最盛期から見れば、多くの領域から撤退して久しい。
家庭用コージェネやなど新たに切り拓いた分野と、発電機や除雪機、小型耕耘機、
汎用エンジンのサプライなど安定したシェアを保ってこれた領域、そこに近年は
量販店向き機種を充実させる事でなんとか保っている状況が、ここ十年ほどは続いて
いる。

その間にも、売れ行きの良くない機種の統廃合は進みみ、特にプロ向けの農機具が
衰退著しくなってきた。ホンダ自身、プロ用途の機械がなんたるかももう忘れかけて
いるのかも知れない。

少々寂しくもあるが、ビジネスとして考えた場合、こうならざるを得ない部分も理解は
出来る。ただ、誰もが『ああ、ホンダなんだな。』と思える製品があったのは90年代
までで、それ以降は、良くも悪くも普通の会社になってしまったようだ。

今回紹介したような機種は、尖っているように見えても、本当にどうやったら人の
役に立つのかを愚直なまでに考え抜いて生み出されていた。故に色褪せない実力を
保ち続けることが出来ている。革新的過ぎる故、当時のユーザーにどこまで評価
されたのかという少々の疑問も残るが、敢えて、そういうモノでも苦労して開発、
生産するという姿勢そのものが、この上ない親切だとも言えよう。

そういう事実を差し置いて、売れたか売れなかったかだけで考え、【早すぎたとか】
【変態だ】とか、【顧客を見ていない技術者の独りよがりだ】とかで片付けて良い
ものか。ネタとして製品を晒すのなら、まあその方が書く方も面白いし、読者の受けも
良いだろう。しかし、現職ではないにせよ、一介の技術者であった経験があるため
か、どうしてもそんな気にはなれなかった。

ネタ扱いや、酷評するというだけなら正直誰でも出来る。需要があっても無くても、
フツーの人間が書けないような記事を書くのがまあ使命なのだと勝手に思っている。
今後も珍機があれば、実際に使用してレビューを残してゆこう。
しかし、この記事のために珍妙な機体を入手するということだけはするまい。
   
 
(前編はこちら)
http://agri.inaka-nikki.net/shinkisyuunou/post-703.php
 
レビュー③【F110 ミニこまめ 耕耘機】
http://agri.inaka-nikki.net/shinkisyuunou/f110.php#more
 
レビュー②【新ダイワ RM451 山林用刈払機】
http://agri.inaka-nikki.net/shinkisyuunou/post-612.php
 
レビュー①【イリノME27B-NC 逆回転刈払機】
http://agri.inaka-nikki.net/shinkisyuunou/post-380.php
 

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