一日中畑に陰を落とすヒノキの伐採も、七本目のこれでラスト。
最後まで残したこの一本、以前説明した通り栗林や畑がある関係から、傾いだ方向とは
正反対の向きへ倒さねばならない。チェンソーのバー長よりもかなり太い木で、倒す
方向にもチルホールをかける木が存在しない。傾いでいる方向への伐倒ならさほど
苦ではないのだが、それに逆らってとなると難易度がハネ上がる。
たかだかこの程度の傾ぎかと思われるかもしれないが、実際倒すとなると想像以上に
神経を使うものだ。
トラクタで引っ張って倒すにしても、ロープを掛ける位置はそこそこ高くしなければ
ならない。軽トラを木に横付けして、荷台から4mのハシゴをかけ最上段まで上った
所に立ち、胸のあたりの高さにビスを打ち込み、そこへロープを二重にかける。
高さにして6m強
ハシゴを外したら、速やかにロープを延長。そして木の根張り切り。
ロープは木の推定長さよりだいぶ先まで伸ばしてやる。ベクトルの向きを考えてみても、
引く際の角度は出来るだけ浅い方が良い。トラクタにロープを結ぶ際は、極力本体に
近い(重心位置に近い個所)点を選ぶこと。
ロータリーにあるパイプなどは、いかにも結びやすくて良いと思われ勝ちだが、こと
こういった重加重を加えるような場合は、特に牽引力を重要であるため、そこを選んでは
いけない。引いた際にトラクションが不足(後輪を支点として、ロータリーが下がって
前輪が浮くような状況)するようでは危険なだけで意味が無い。
尚、牽引中はトラクタを四駆に、ロータリーは地面スレスレにまで下げておく。
言わずもがなだが、一応説明すると牽引力の確保とウィリー防止策である。
そこまで済んだら、いよいよ引っ張りながらチェンソーを入れたい・・・ところだが
引っ張っている最中にロープが切れたとしたら、何処へ木が倒れるか知れたものでは
ない。ロープはどうしても長さが足りなかったため、ナイロンやら木綿など、材質も
径も異なるものを継いで伸ばしてある訳で、不具合が無いことを確認しなければ
とても安心して作業出来ない。本来ならば、それなりの太さの金属ワイヤーが欲しい
ところだ。
試しに、そのまま強めにテンションがかかるまでトラクタを前進させると、どうも嫌な
感触。前進を止めても、少しずつロープが伸び、バツンという音とともに木綿のロープ
が千切れる。ご丁寧に、ヨリまでがかなりの長さまでほぐれてくれている。そこで、
他にも不具合の発生が無いか全体を確認した後に結索方法を見直しつつの継ぎなおし。
再度きつめのテンションをかけて(クラッチを切るとトラクタが、1m弱引き戻されて
しまう位の引き荷重)数分間放置してみたところ、今度はしっかり保持してくれている
ようだ。
イレギュラーな作業をするのだから、これくらいの用心がなければとてもではない。
トラクタを停止させる際は、引き戻されるのを防ぐため、ブレーキをロックし
ギアを入れっぱなしにしておく。
で、いよいよチェンソーで刻みを入れる。だが、作業はどうしてもビビり気味。
この作業は、途中でロープが切れても、チエンソーが木に噛まれても、即座に
やりようが無くなってしまうのだ。
ある程度刻んだら、速やかにクサビを深く打ち込み、不意に木が倒れても逃げれるよう
迂回してからトラクタへ乗り込み、少しだけ前進させて、ロープのテンションを確認
しながらまた刻むの繰り返し。
ああ・・・狙った方向ドンピシャで倒れてくれた。そう感じると同時に、異様な虚脱感に
見舞われる。この日は、昼になっても食欲が出ず、昼寝をする気にもなれなかった。
そう、作業中は神経が持たないほど緊張して、生きた心地がしないからだろう。
手伝ってもらおうにも、イレギュラーな作業はたいがい危険過ぎてお願いが出来ない。
それに、そんな仕事のやり方を教えた所で、今後教えた相手がその方法ありきで作業を
するようになったら、リスクが倍になるたけだ。
危ないと解っていて、それでもやらなければならない時ほど辛い事はない。注意して
くれる人さえいないのだから。なまじ知らないほうが、どんどん出来るのかもしれない
が、それだとそのうち確実に死ぬ。死にたくないから、犠牲者を増やしたくないから、
結局一人で少しずつやる。
そういう内容のことを、わざわざ記事にするのは、正直なところ、こういう作業を
模倣して欲しくないからでもある。同時に、【知った上でやる】ということが、
【自己責任】という言葉の示唆しているところでもあるということを良く覚えて
おいて欲しい。
それはともかく、余裕がないから仕方ないという理由だけで、なんでも自分でやらずに
業者を頼むなどの選択肢も、いい加減必要だなと思う。
それと、装備は大切だ。あるものでなんとかしようとばかり考えていると事故の危険は
いつまでも減ってくれない。