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#44 お金では買えないこと

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いつものように、師匠宅へ向かう道すがら、眠気と共になんとなく胸騒ぎがした。

到着して、家の中にいるおじいさんに挨拶をしたら、話があると呼び止められる。


「いつもの鍬、何か気づいたことはないか?」


いつも洗って返しているし、使っていて何か気づいたことも特になかったので


『鍬、ですか・・・?』  と間の抜けた受け答えをする。

「しらばっくれんでねえ!気づいてない訳あんめぇよ、これ、見てみ。」

やっちゃった.jpg

確かに、溶接部の反対側まで亀裂が入っている。
いつも、この裏面ばかり見て作業しているから、全く気がつかなかった。

『あっ!』  としか反応出来ずにいる間にも、おじいさんの怒りは高まってゆく。


「これまでの信頼関係は今日でゼロに戻ったぞ!」

「こんな使い方するもんに、道具は一切使わせらんねえ!エンピもコンクリを切るもんでねえ!」


『申し訳ありませんでした。』 何度も平謝りをする。


「作業は後でいい。とにかく同じものが農協にあるから、買ってきて見比べてみなさい。」


『わかりました。それで、どこの農協へ行けばよいでしょうか?』


怒り心頭に達しているおじいさんに、恐る恐る農協の場所をうかがうと、意外にも
地面に枝で地図を書いて丁寧に教えてくれた。この方は本当に面倒見が良いと思う。

早速訪ねて、鍬を見せると、見事に同じ物が出てきたので購入。(決して安くはない)
ついでに、農作業での傷害を補償できる共済や、野菜の種苗の値段などについて個人的に
調べる必要があったので、職員の方に教えていただいてから店を後にした。


『失礼します。買ってきました。』
 
「おお売ってたか。どれどれ。」


おじいさんに鍬を手渡そうとした時、今度は少し笑みを浮かべているのに気づいた。
そのまま、一緒に納屋へ行く。


「ほんでは、さっきのと見比べてみなさい。」

傾き比較.jpg

左側が壊したほう。右側が新品

確かに傾きが違う。左側の鍬は完全に開いている。


「どんな使い方をしたか、判るかな?」

『こじるような使い方です。』

確かに、水をあまり張らないで、重たい土や泥を引っかき回すような作業を
この間から行っている。知らぬうちに、無理な力を加えて作業していたようだ。


「こういう風になると、仕事にならなくなる。これを両方持っていって使い比べてみなさい。」

『え、弁償するつもりで買ってきた新品ですが、使っていいんですか?』

「いいから使ってきてみなさい。すぐにわかるから。」


早速圃場へ行き、田んぼの泥をよそってみたり、地面を引っかいたりするような作業を
しばらく行いながら比較してみる。

本当に違う。何の説明も要らないほど理解しやすい結果だった。
しっかりしている鍬は力をあまり使わずに作業が出来る。腕や足の位置関係まで
しばらく使っているだけで、疲れないポジションに矯正されていくのを感じる。

その後に、開いている鍬を使ってみると、何をするにも重く感じる。
そして、余計に開いていくような感じだった。


作業を終え、結果をおじいさんに話す。


『開いているほうを使って作業してたら、体が持ちません。』


「それを知って欲しかったんだよ。」 

 ~ いいかい、道具ってもんはね、しっかりしたものであれば作業ははかどるし、何十年と
   使える。その間は手入れをして使い続けるのだから愛着も湧いてくる。そして、月日と
   ともに体になじんでくると、ますます作業がはかどるようになる。そうなったら、それは
   自分にとって新品にも勝るものなんだ。そんな道具があったら、そりゃあ人には貸せ
   なくなる。それを使うことが、百姓としての喜びを2倍にも3倍にもするんだよ。
   
   だから、しっかりした道具を選んで、大切に使うんだ。そりゃあ値は張るかもしれん。
   けれど、使い続けたときに出てくる価値というのは、銭で片付くようなもんじゃない。
   一生涯共にするものだからな。ほら、あそこにあるマンノウなんかは、50年じゃきかん。
   
   今日の鍬は、そこまで良いものじゃないけれどな、農協というところは、百姓が使える
   ような物でないと置かない。だから、ホームセンターで買うよりは遥かに確実なんだ。 ~


『大切にされている道具を粗末に使ってしまって、ご迷惑をおかけしました。』

『何故、あれほど怒られたかがよく判りました。それでも、色々とこうして教えてくださって、
本当にありがとうございます。』


本当、無自覚にふてぶてしいことばかりしていたものだ。恥ずかしい。
それでも、今日こうやって教えてもらえて良かった。教えてくれる人がいて本当に良かった。


時間を重ねることの愉しみ・・・以前、伝えたいことだと書いたが、それを実践し続け、
伝えてくれる方がここにいた。最後はニコニコしながら。

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コメント(2)

こんにちは。
元同僚のHavecar I です。

この話、胸にぐっときました。
道具というのは、使い方によってこんなに変わるものなのですね。
きっと私たちが作ってる農機もそうなのでしょう。
長く愛してもらえる機械を作らないと!!

暑い時期になってきました。
体に気をつけてがんばってください!応援してまっす!

Havecar I さん

声援どうもありがとう。
遅レスで申し訳ありませんでした。良い語呂合わせだね。

御社の機械は2台ほど使ってますよ。
本当、体の一部になるまで大切に使っていきたいね。

それにしても、この話は俺が現場にいるときに聞いておきたかったなぁ。
辞めて、実際に作業するようになってからさ、機械のアイディアがよく思い
浮かんだりして少し惜しい気持ちもある。

少し遠いけれど、見にくると何かヒントが見つかるかもよ。


それでは、暑さに負けじと頑張ってきます。