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#364 敗北宣言

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朝から、昨日の除草作業の続きを行う。
相変わらず、今日もやたら風が強く、作業中にイネへダメージが入り易い。
巻き込む分けつ株を減らそうと除草機の株間を狭く調整したり、作業時に風下に
なっている側に除草機を傾ける。更には、3条の除草機なのに2条ずつ(一往復は
オーバーラップさせる)などの努力を重ねるも、余りに強い風の中にあっては、
どれも捗々しくない。分けつが盛んな時期でこれはつらい。作業中のストレスも尋常
ではなく、一秒でも早く終わらせて田んぼの外へ出たいという気持ちだけが強くなる。

もはやこれまで・・・.JPG
 
なんとか終わらせたところで、除草が完了したのは縦方向のみ。株まわりの除草を
行うには、更に横方向に除草機を通さねばならない。これ以上イネにダメージを与える
事に対して、気力が持つのか・・・そして、経験上それを行ったとしても、イネの再生
速度よりも早く雑草は復活してくる。さて、これからどうするか。
 
 
とかなんとか考えながら、排水の溝を鋤簾(じょれん)で埋めているたら、先生が
通りかかる。
 
 
『これ、もうダメだろ、ムダな努力はしないで除草剤ふっちゃえ。』
 
「これまで農薬・化成肥料なしで売ってるのに、それで納得するんですかね?」
 
『仕方なく使いましたって断ればいいじゃないか。黙ってたって分かりゃしないよ。』
 
「それは出来ませんね。ここで栽培する意味がなくなっちゃう。」
 
「こんなことやってても、自給200円とか300円だからしょうがねえよ。」
 
 
本当に、言いたいことばかり言ってくれる。そもそも愚直すぎる性分だから儲けに
ならないと知っていて条件不利な場所でコメを育てているのではないか。
それが出来るのなら、こんな場所で就農なんぞしない。もっと換金率が高くて初期
設備も少ない作目を選んで集約的管理を行い、早々に収益を出すだろう。借金なんぞ
軽く3~4年で返済してあとは、いけいけで規模拡大を目指す模範的な農業を行う
のが手堅い選択なのだから。然し、自分は【儲かる農業】が行いたくてこんな体を
張った実験を始めたわけではない。(理由は後述)

それはそれで、先生とて年中金が無くて朝早くから暗くなるまで畑にいる。夜は作物を
自ら売りにゆく。何十年と様々な仕事を経る紆余曲折の末、もともとの農耕に
戻ってきた事が、先生にとって本意だったのかどうかは未だに知らない。

なんというか、彼の言動は、このように時々トゲがある。
正直、カチンとくる自分をおさえつけて柔和に対応している事もあるのだが、
冷静に考えてみると、彼が言いたいのは
 
 
《そんなことをしていると、俺みたくなるぞ》
 
 
という事なのかもしれないと思えてくる。

 
 
そんなことを思ってみても状況が変化するわけではない。このまま早稲を栽培
し続けてもマズいものはマズい。 収量が少ないコメのほうが美味い傾向はあるが、
それじゃ困るのである。
 
ん~除草剤は・・・この段階で使うとしたら中期剤より上の強いやつ。
そんなの使える訳がない。
 
人を沢山呼んで除草を手伝ってもらう・・・近々に対応をしなければならないので
これもダメだ。それに、未経験者が沢山集まっても、段取りに時間がかかって作業
時間も短くなり、それでいて作業自体は不完全燃焼になりやすい。結局翌日に自分で
田んぼに入っていつも通り作業をしているケースが多いので、ある意味未経験者への
支援要請はバクチに近い。何より、それを知っていて他人に手伝いをお願いするのは、
いくばくかのお礼が出来たとしても無礼極まりない。もし手伝ってもらうなら、
しっかり教える時間的猶予と、一緒に楽しく作業を行える雰囲気づくりが必要なので
あって、こんな殺伐とした状況に人を呼んだ先がどうなるかなど、たやすく想像出来る。
 
 
あーあ、折角補植(抜けた株」を後から植えること)までちまちまやってたのに
これ以上この田んぼに時間食われてたら、師匠から今年引き継いだ最大の難所の
田植えが出来なくなってしまう。あれは、なんとしてもこの3日以内に植えないと
本当にヤバいのに・・・。
 
 
ん!?田植え・・・そうか、最後の手段がまだあった。
そう、ここの早稲は放棄し、もう一度田植えをすればなんとかなるかもしれない。 
最後の田植え用と予備の苗は、まだ70枚も残してある。 そして、今出ている
雑草を全て叩いてしまえば、仮に今年の収穫が少なかったとしても、雑草の種子
及び塊茎の発生量自体は少なくなる訳で、来年以降の除草管理も有利になる
可能性が高い。二枚とも同じ日に田植えをすれば、作業の手間も思ったよりは
増えないだろう。
 
 
それにしても折角ここまで育てた早稲が・・・でも、もはや躊躇している時間は
全く無い。
 
 
遺憾を通り越し、頭の血管が切れて死にそうだが、ここを守るため他の田んぼの
管理まで犠牲にする訳にはいかない。未熟者ゆえに、初っ端から管理がコケていた
この田んぼに植わってしまった早稲(ふさこがね)様、どうぞお許しください。
 
 
そして、昼メシも食わずに一気に田んぼ4枚のチェーン除草を済ませ、午後からは
トラクタでこの田んぼを蹂躙。決断から行動までが、今回は異常に早かった。


南無釈迦むにぶつ.JPG
 
当然、気分が良い訳は無い。これまでの努力は何だったのか。お経のテープでも
持ってきてトラクタに装着されているカセットデッキで再生したくなる。

 
感傷に浸るのはさておき、今後の対策として耕深は常の代かきよりも若干深くして、
作業速は遅くする。透水の悪い田んぼになってしまうかもしれないが、7月以降も
しばらく発生し続けるオモダカとクログワイを叩く必要がある。これらは、20cm
以上の深度からも平気で出てくるため、少しでも物理的ダメージを与えるか、
ほじくりださなければ発生は減らない。クログワイの塊茎は、水面に浮いてしまえば、
たいがいそのまま腐ってしまう。従って、塊茎繁殖する雑草駆除を兼ねた代かきを行う
場合は、ドライブハローを使用するよりも、耕深が深くて土も引っ張れる標準ロータ
リーのPTO速度を上げて使用するほうが効果的だったりする。作業速度はハローに
劣るものの、設定次第では問題なく代かきが出来る。ハローに頼らなくても、轍を
残さず、耕深も浅く安定した代かきが出来るセッティングは必ずあるものだ。これを
知っているから、なんと今年はハローの出番が全く無かった、複数の田んぼを同日に
まとめて作業する事が多く、しかも荒起こしと代かきを同時に行ったりするので、
いちいちアタッチを換装している余裕が無かったのだ。トラクタ2号機を直せばこれも
解決できそうだが。

因みに、クログワイなどを本気で根絶したい場合は秋にプラウ(鍬)を使用した
反転耕を行い、冬場に寒気に当て、更に幾度かロータリーによる撹拌耕と土の風乾を
繰り返さなければいけない。それはまた次の課題である。


再度植える苗は、晩植対応多収品種を選ぶ。ここに来てまさかの最強ストッパーが
登場だ。
 
おらいの秘蔵っこ.JPG
 
恐らく、今のところ最後の新開発食用米【ミルキースター】。
系統はミルキークイーン及びミルキープリンセス。食味・耐倒伏性ともに良好。
ここまで遅いとどうだか知らないが、遅く植えてもそれなりに収量が見込めると
いうのが最も助かる。とある所より種モミを入手していたので、一応多めに苗を作って
おいて正解だった。知名度は低い。というか、研究機関からあまり出ていないようで、
殆どタネもコメも流通していない。人気の【ふさこがね】を一枚潰した以上、インパ
クトで勝る品種を植えてリカバリーしたいところ。
 
 
鬱になりかけながら、無差別虐殺を済ませた後、そのまま最後の難所へトラクタを
走らせる。ここは、例によって激しいザル田の上に重たい粘土質。田面の高低差も
異常にあってやりづらい。一度整地した田面は、中干し期間を経て地面はヒビ割れ
ばかりになってしまった。昨日からざばざば水を入れているのに、まだ全面に行き
渡っていない。

最悪の保水性だ.JPG

暗くなるまで作業し、半ば無理矢理に均す。草の残っている部分は、スタックの危険が
あり過ぎてトラクタでは入れない。もう時間的に余裕が無いのでここには何も植えない。
 
 
 
夕刻、まだ近くの田んぼをディーゼル管理機で代かきしている師匠と話をした。
 
 
 
「あの田んぼ、全部うなっちゃいましたよ。」
 
『すごいな人見くん、度胸あるなぁ。』
 
「いやもう度胸とかじゃなくて無理ですよ。気温低くて初期の生育がいつもより更に
 遅かった上に、ずーっとダラダラコナギ出てきて。あそこまでなっちゃったら除草
 しても一週間経ったら元に戻るもん。毎週除草機なんか入れてたら株が増えないし
 根っこも千切りっぱなしになるし。それで収穫が殆ど無いとか、もう何してんだか
 色々申し訳ないしやりきれないです。」
 
『普通はこの時期になぁ~・・・。でも、これからは暑いから雑草の伸びも速く
 なって、気を抜くとすぐ元に戻るぞ。』
 
「今度はコナギよりオモダカとクログワイが恐ろしいですね。オオモダカなんかは
 種(塊茎とは別)でも発生してるみたいだし。でも、今年はなんだか雑草が多く
 ないですか?」
 
 
『今年はねぇ、多いよねえ。多い年と少ない年があるんだけど。それで、田植え
 した後に暑さが続くとイネが枯れやすくなるから注意しな。気温が相当に上がって
 きてるから、すぐ植えて早く活着させないとヤバいぞ。』
 
 
「植えても枯れるんですか・・・株数増やしとかなきゃ。雑草は、去年の暑さとか
 これまでの天候もあるのかも。」

 
 
『とにかく有機栽培の場合、田んぼの水を切らせたら本当にアウトだからな。これまで
 人見くんの田んぼの改善とかもやりたかったけど、なかなか時間がなくて。けど、
 次の冬はなんとか時間とれそううだから、一緒に造り直そう。』
 
 
「ありがとうございます。とりあえず、あのザル田には外周切って畦畔板でも指して
 おきますよ。」
 
 
 
もう何の会話なのだろう。 周囲では殆ど誰も知らないようなノウハウの応酬だ。
蛇の道は蛇と言っても、度合いというものがあるだろうに。
 
 
 
かように、条件不利地での単独耕作というものには障害がつきものだ。
それでも、ここを選んだ理由はしっかりある。
 
 
それは、中山間地農業の行く先のひとつを提唱したいという想いである。
自分だけが儲かる模範的な農業を行う気などハナから自分には無い。
 
 
ここで最初の会話に戻り、何故除草剤を使用しないのかということを考えてみよう。
例えば、この地区で採れるコメは確かに美味い。それは、周辺でも川沿いの開けた
土地でコメを栽培している農家がわざわざこちらのコメを自家用に買いに来ること
からでも窺い知れる。でも、ここで苦労して慣行栽培を行っても、コメを通常どおり
出荷していたら他所のコメと混ぜ物にされてしまうし、挙句、売価は変わらない
のである。栽培したものの最大の特徴が失われるような仕組みの中で収益を出そうと
思うほうが狂っていると思えないだろうか?だから、特徴を最大限に生かすために
薬剤や化成肥料を使わないのだ。湿田で慣行栽培をし続けるのは、田んぼを守るとか、
世間体とか色々あるだろうが、一からげにすると、単なる意地とも受け止められる。
果たしてそれが面白いと思えるのか?続けようと思えるのか?

そして、高齢化もどんどん進んできている。当然ながら引継ぎ手は少ない。
出来る者に、圃場管理を委託する家が増えているが、畝分が増えたとて、そこまで
効率の良い集約的管理が出来る土地柄でも無い。条件の悪い土地で、耕作規模を
拡大しようとした場合、設備投資及びそれらの維持費も嵩む。
 
また、このような地域では兼業農家も多く、それらの栽培面積の多くは1町分未満。
従って、特に設備面で補助金や制度資金を利用するのは難しい事が多い。
その家が使用している設備が、もしも使用不能になったら耕作の土台が揺らぐ。 
だが、作業の一部委託しようにも集落営農機能のひとつであるライスセンターですら
条件の悪い圃場を敬遠する傾向がある。首の皮一枚で、辛うじて耕作出来ている土地の
手入れ状況が、年々悪くなっていったとしても、誰も文句は言えない。
 
ジワジワと、従来の耕作基盤そのものが失われつつある。これを放置すると、
何年後かにはここら一帯が茅場(カヤ場)に変わってしまう。
 
 
だから、地域の耕作基盤そのものが維持し続けられるように、側面から支援しつつ、
円滑な世代交代を行い、且つ農業に携わる者が安定した生活を営めるようにする必要が
あると考えている。そのためにのアプローチとして、以下のようなことを考えた訳だ。
 
 
・栽培したものについては適正な価格で受け入れられるような訴求活動がを行い
 土地ならではの味と品質を消費者に浸透させる。収支が安定する農家が増えれば
 旧来からの農家が減少してゆく事に対して歯止めがかけられる。
  
 
・農業や、農的な生活に憧れを持つ者が定着できる環境を構築する。
 即ち、設備面・耕作面でバックアップし、早期に自立できるようにするという事。
 また、就農希望者の中にはいわゆる【後戻り不可能な攻撃的ガチ農業】を志して
 いない者も多い。つまり、【半農半X組】もしくは【里山隠遁希望者】である。 
 それらは、老若男女を問わずメディアの影響もあってか相当な数に上るものの、
 いざ田舎に出てみると、彼らを受け入れる雇用や、その土地でその考えに理解を
 示せる者が少ないなど、生活面でのインフラが整っていない状況に直面することに
 なる。そこで孤立したり収益が確保出来なければ、引き返す者も相当出てくるのが
 当然だろう。 新規就農者が10年後には離農8~9割というデータについても、
 これらの要因を見逃す事は出来ない。
 
 
・従来からの耕作機能の維持及び改善
 主に、周辺で農業を営んできた者に対して低廉な設備及び技術提供を行って、
 地域農業の維持存続を図る。
 
 
・地域外への興味喚起及び理解活動
 体験レベルの都市農村交流を超えた連携関係を生み出す。人の往来を多くして、
 もちつもたれつの関係を保ち、【結い】の感覚を地域の外へ拡大する。
 農業体験サービスの提供及び産品の売買のみでは、人の心まで通い合わせられない。
 食料と娯楽の提供のみを行い続けると、田舎自体が単なる消費の対象に成り下がる。
 【消費】するから【持続可能】という論法はかねてより疑問である。
 協力しているから持続可能なのである。従って、如何なるイデオロギーに染まる
 必要も無い。
 
 

とまあ、このように小難しいことを考えながらちまちまやっている訳だが、やっぱり
一人ではどうにもならないなというのが現状。こんなの国とか行政とかが考えた方が
良いくらいのレベルなのだから。それでも、これを読んで理解を示してしてくれる
方がいるのなら、少なくともその方へ売るコメくらい収穫出来ないと、全く事は
進まないのである。

 

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