「台風、何回も食らったのに倒れないなんて珍しいな。」
『ここ、収量少ないですからね、頭が軽いだけじゃないですか?』
「軽くっても、倒れるときは倒れるもんだよ。運がいいな。」
『それにしても、ぬかるみばっかりだから手刈りの部分多いですよ。』
「昔は山の清水がもっと湧いてたから川も水が多くってよ、田んぼも水が全然
抜けなかったな。農業用水なんか来なくても困らなかった。改良も入ったけど、
段々を残しちまったから、なんか昔とあんま変わらないな。」
「昔は手で刈って、道なんかもリヤカーが通れるくらいの幅しかなくって、
採れた米はこの山さ上がったとこまで運ばないといけなかった。でもって・・・。」
つくづく、先人の苦労には恐れ入る。
手で刈ってるからからといって、大変などとはさほど思えなくなってくる。

朝露に濡れるイネをひたひたと刈りながら、昔のここの景色を想像していた。
奥を見れば、何か往事を偲ばせる雰囲気に思わず手が止まる。
泥の中にしゃがみこんだまま深呼吸。不思議と気持ちが落ち着いてくる。
その後は、面倒くさいと思っていた手刈りも無意識に出来るようになり
なんとか、機械が入れるくらいまでは完了。
昨日も2時間手刈りをした。いつも手伝ってくれる先輩に感謝。
今朝は慣れもあってか昨日と同じくらいの面積を2時間で出来た。

何かの図案のようだ。
朝露が切れる時間まで手刈りをし、コンバイン投入。
まだきわどい部分はあるが、何とかなると踏んだ。

湿田では、コンパネが重宝。
進入路がいきなり深い泥濘なので、これを並べて入る。
コンバイン旋廻時にもこれを引いておけば、土が掘れないのでもぐらない。
ここでは刈り取り手順にもセオリーが通じない。
頭の中で、刈るルートを描き、それに則った導線を確保するため、しばしば
コンバインを降り、手刈りしながらの作業になる。
ぬかるみとの境目までは前進で刈り、後退して刈った脇をまた刈るという
繰り返しで動けるスペースを稼ぐ。

夕方まで、それを繰り返し、95%は完了。
湿地の中に取り残された島は、明朝に手刈りする。
別に、これくらいの面積なら気にはならない。
それにしても、この機械は軽いので湿地には強いようだ。
落ちたと思っても、前後に大きめにもがくような挙動とともに、ジワジワと進む
ことが出来る。
そんな風にして通った後は、轍が出来、底が締まってくるので、わざとそこに片方の
クローラを引っ掛けながら、無理やり通したりしてみる。

最初は恐る恐る刈っていたが、一度このレベルまでなら大丈夫と判断すると
あとはもう省みない。平気で突っ込んでいたらこんな深みを随所に作ってしまった。
さすがにこれは調子に乗りすぎた。無駄に田んぼを掘ってしまうと、当然田面は
ガタガタになるので、来年作付けした際に管理ムラの原因になってしまう。
機械も、刃物に泥がついたりすれば耐久性が下がる。
【急がば回れ】か。機械の轟音の中ででは冷静に考えられない。
今出来るからといって、すべきでない事も沢山あったようだ。
やはりこの田んぼには全然かなわない。


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